大まかに全体の色合いとパースを決め、このイラストに必要な要素からスケッチを始めます。 このイラストのオーダーは「原風景」なので、帰る場所と帰る人の対比、つまり家屋と学生の対比をまず頭に浮かべて作業を開始しています。 家屋の配置で色々な要素が決まるのでまず家屋から描き、その後家屋を囲う樹木や道を描き、学生の立ち位置を決めていきます。 また、春シーズンに使うイラストというオーダーがあったことから、家屋の隣に桜を添えることにしました。満開のファンタジーのような桜ではなく、田舎にふと咲いているような桜を描く予定です。 それ以外の要素は、原風景という点を考慮して描いています。棚田は、先方とイメージの擦り合わせをする中で出てきた案ですが、夕日を描くと水面への反射を描きたいと思っていたので、その点でも採用しました。 おおよそ家、桜、棚田、山、学生、という要素はイメージしながら、その配置を描きながら定めていっています。

このイラストはあくまで学生と家屋が対面し「ただいま」「おかえり」となっている印象を狙っています。 このとき、夕日の印象が強すぎるとそちらに目が行ってしまうので、まず不自然の無いように家屋の灯りを決めていき、その後夕日を決めていきます。 桜は家屋とセットです。

家屋の灯りをおおよそ決めたあと、夕焼けの明るさを決めていきます。 山に日が落ちている状態から、徐々に色を重ねていく中で明るさの目安を決めていきます。 このムラを使いながら、雲の表現を作っていくことで、自然な空気感が出ます。

大まかにどこに木があるか、草があるかを決めていきます。 木は、青系の色合いを使っていますが、周囲との差異で緑に見えます。 色の違和感を無くしていくテクニックの一つです。

青系の色で学生を描いていき、周囲の色と調和させます。 今回描いているのは、背景ではなく風景です。もし背景だったら、ある程度キャラクターを強調させるためあえて色合いを変えます。 しかし風景だとすると、キャラクターも絵の中の一要素である、と考えます。その場合、キャラクターだけ目立つのではなく、むしろ一枚の絵の中での役割を意識するようにします。

外灯をどこに置くかを試行錯誤しています。 まず、家屋のある左側に比べて右側は光源がないため、学生に光を当てるためにも一本必要だと考えています。 また、それ以外にも道路や鳥居など、そこにあることを印象付けたい要素に外灯を立てていきます。 なお、この時点では4本の外灯を描く形で終えていますが、清書段階では外灯を減らしています。

夕日、家屋、外灯、と、明るさを生み出す要素をここまでの工程で作り終えたので、光の印象を調整していきます。特に、夕日は一番印象に残りやすいものの、この絵では主張しすぎるといけないため、夕日の眩しさから調整しています。 その後、水面への反射などを描いていき、どの程度の光の量がよいかを探っています。

棚田そのものの形状は変更せず、稲穂を生やすことで見え方を調整しています。 清書段階に向けて、おおよそのあたりをつけています。

ここまで、個々の要素ごとのバランスを配慮しながら描いてきましたが、トーンカーブを使って全体の見え方を調整します。 ここまでが、ラフを描く前の下絵のような段階です。

資料を見ながら、田舎の家屋が具体的にどのようなものかを描いていきます。 この家屋は、どこにでもあるような田舎の民家を選んでいます。もし茅葺屋根にすれば、より印象的でよくある絵になりますが、それは文化財のような、あるいはファンタジーのような印象が強くなります。 まったく意識していなかったような日常を「懐かしい原風景」として表現することを、今回のイラストを通じて意識しています。

小屋を描いていきます。棚田の横にある家屋なので、この家は農家をやっています。 その場合、かならず納屋はあるため、まず納屋を配置します。ただ、それだけでは少し家の横が寂しいため、小屋の数を増やしていきます。

田舎の家にある「整地された部分」と「植物が生えている部分」、その中間を意識しながら植物の配置を決めていきます。 この絵において植物は全体のバランスやリアリティを出す位置付けです。

幼い頃から城マニアだったため、描き続けた結果、石垣は何も考えなくてもそれらしく描くことが出来ます。石垣はランダムに石を積み上げているように見えますが、積み方に様々な種類があります。 ある描き方が、城なら違和感がなくとも、このように田舎の風景では違和感が出ることもあります。 石の大きさ、形、加工度合いなどから、その世界観を意識しながらリアリティを上げていくことが大事です。

棚田の道を描いていきます。スケッチから大きく変えていませんが、奥行きまで意識して描いています。 棚田は、上や横から見るとなかなか立体感が出ません。 斜面を眺めるような構図を当初から意識して描くことで、段差や高さを印象付けることができますし、それを意識して加筆しています。

木や鳥居はこのイラストの主役ではありませんが、田舎ならではのワンポイントとして描いています。大きさを見ながら、目立ちすぎず、違和感が出ないよう調整されています。

桜についてはこのイラストで印象に残るポイントです。まず桜の種類としてはエドヒガンザクラを選んでいます。一般的なのは染井吉野ですが、染井吉野はある程度大きな幹を軸にした、根を張った印象がある桜です。今回は家屋の裏側から枝が伸びる配置なので、枝ぶりがより美しく描けるエドヒガンザクラを選んでいます。

清書段階でレイヤーを分けることを意識し、輪郭のみ描いていきます。

このイラストは学生と家屋が「ただいま」「おかえり」をすることが大事なので、まず目線→顔つきを描き、その後頭身を描きます。 スケッチ段階では制服やバックなどを厳密には描いていないので、ラフの段階で描き込んでいくことがこの工程で大事なところです。 描き込んだ結果、頭身バランスや体全体の大きさに違和感が出ることもあるので、そこは随時調整しています。 特に人物は左右反転することでバランスの違和感に気付けるので、テクニックとして実施しています。

スケッチ段階から大きくは変えていません。

柴犬を描いています。

スケッチ段階で4本あった外灯を、この工程で2本に減らしています。 学生や家屋を描いたことで視線が明確になったところ、外灯がそれを邪魔している位置にあったため、真ん中の外灯は消しています。 また、家屋の横にあった外灯については、家屋の陰影を明確につけるために削除しました。常に光が多すぎないように、陰影の中に光がある印象を狙って描いています。

着色をしていきます。スケッチ段階でも記載したとおり、今回は背景ではなく風景なので、学生も風景のいち要素としての色合いで描いています。 また、外灯などの光の変更を踏まえ、光の当たり具合を意識して調整していきます。

黄色を塗り重ねていくことで明るさを調整しつつ、エアブラシで眩しさの表現を作っていきます。その後、山、家屋、学生などへの光の当たり具合を調整していきます。