メイキングインタビュー ぽち / 春景望郷



「地方の地域観光に繋がる原風景の良さを伝える風景イラストを描いて欲しい」

本作品は、そんな行政からの依頼を想定してぽち氏に描いていただきました。

 

―決して観光パンフレットに載らないような、「いつもの風景」。


ぽち:地方で育った人の多くは、観光名所よりも、身近な山や海、湖といったものを思い出します。 特に山は、その土地の祭りの名称になっていたり、学校の校歌に使われていたりと、その土地の記憶につぶさに繋がっています。


ぽち氏自ら撮影した、田舎の風景写真

そこに住んでいた時には何とも思わなかった"いつもの風景"そのものが、原風景として見える瞬間を描くこと。 今回のテーマを考えた際、そこをまず一つのポイントとおきました。


次に、原風景の中に「懐かしさ」「暖かさ」を感じさせるストーリーを含めるため、帰る場所と帰る人の対比、つまり住居と、そこに暮らす少女の対比を作りました。


帰る場所と帰る人の目線を合わせる

「おかえり」と「ただいま」が聞こえるような、この住居と少女の構図そのものを、まずこのイラストの骨組みとしています。

また、少女が家に帰る時間ということで、時間は黄昏時を設定し、夕焼けを描くことにしました。

 

―桜や棚田は主役ではなく、風景の一要素として描く


ぽち:依頼主との初回打ち合わせの中で、春に使うイラストであることが分かったため、家屋の隣に桜を添えることにしました。

こうした時、桜をどう描くかが一つのポイントです。



「控えめながらリアルな桜」を意識し描いた夜桜

満開のファンタジックな桜を描いたほうが、絵としては強い印象を作ることが出来ます。 しかし、あくまでこのイラストは桜の美しさを強調するものではなく、田舎を彩る一要素でしかありません。


田舎では、見渡す限り満開の桜が咲いている、というよりも、ふと横を見たら桜が一本だけある、といった風景の方が身近です。

あくまで、原風景を装飾するもの、という点を考慮し、控えめながらリアルな桜を描くことにしています。


これ以外の要素として、棚田は、依頼主との擦り合わせの中で出てきた要素です。

夕日を描く場合、それを反射する水面があった方が絵として引き立つという点もあり、採用しました。


また、住居を多く描いて集落にする方法もありましたが、リアルな絵で要素を増やすと複雑になり、時間が多くかかります。

今回は必然性もなかったので、予算・納品期間を考慮し、住居1つを丁寧に描く方針としました。


これらの検討を通じ、山、家、少女、桜、夕日、棚田といった要素が絞れてきたので、これを配置していきます。


 

―塗るのが好き


ぽち:私は、他の作家に比べても時間がかかる方だと思います。

その理由は大きく2つです。

1つは、着色段階における、色の塗り上げの段階に時間を掛けていることです。


これは大層な理由ではなく、単に塗るのが好きなんです。



スケッチ段階の着色


イラストを描く時、自分が絵を描いている、自分のタッチが絵に染み込んでいく感覚を大事にしています。 水面や雲、山肌、道などを、ひたすらブラシで塗り込むことで、自然なムラを通じて重さ、質感を表現しています。


逆に、フォトバッシュやテクスチャを多用すると、無機質な絵になってしまいがちです。

もちろんそういう絵が悪いわけではないですが、自分が描きたい絵かというと違和感があります。


 

―自分が知りたいと思ったことをとにかく調べていく


ぽち:もう1つは、ファンタジーよりもリアルな設定を重視していることです。

例えば、このイラストでは石垣を描いていますが、その石がどの地域のどこから運ばれてきたのか、

その結果として石の形はバラバラなのか均一なのか、積み上げ方の技法は何か、などを決めてから描いています。



石垣 線画


城マニアだったので石垣には詳しいですが、そうでないものがあれば、自分が知りたいと思ったことをとにかく調べます。 調べて調べて、何年もそれを繰り返していくことで、自分のイラストレーターとしての財産を増やしていっています。


ちなみに最近(2021/4)のGoogleEarthは、土地や地形がすぐに調べられるので、イラストを描く時の資料として非常に便利です。


 

―背景ではない、風景


ぽち:私は背景を書いているのではなく、風景を書いています。 もし背景を描いていたら、キャラクターに視線が集まるような構図にし、色合いもそこを目立たせるよう、メリハリをつけるべきです。


でも今回は風景を描いており、キャラクターはその1要素です。


この前提に立つと、まず各要素が目立ちすぎない構図や配色を行うことが必要です。



キャラクター自体を背景の一要素として描く


目立つ、ということは視線が向くということなので、夕陽の光や外灯の光は抑えめに、また桜や棚田も必要以上に主張しない構図になっています。

ただ、目立たない要素も含め、1つ1つを精緻に描きあげることで、そこにある世界が「嘘っぽく」ならず、印象的なものになっていきます。


こうした全体のバランスを調整しながら作り上げていくことが、作品作りで時間を掛けてでも大事にすべきことだと思います。