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メイキングインタビュー ao / 銀河鉄道の夜


銀河鉄道の夜
銀河鉄道の夜

「夏休みの課題図書になるような児童書の装画を描いてほしい」

本作品は、こうしたテーマのもと、イラストレーター aoが描いたものです。


ここでは、どのようにしてラフ案を絞り込んでいったか、またその背景にある制作のこだわり、仕事への向き合い方について、インタビューを通じ紐解いていきます。

 

銀河鉄道の夜は、既に様々な芸術家・作家・そしてイラストレーターが表現してきたテーマです。こうした中、自分ならではの銀河鉄道の夜をどのように作っていったか、実際の制作工程に沿って教えて下さい。


ao:児童書の装画を想定しての絵作りだったので、子ども達が思わず手に取ってみたくなるような、 物語の始まりを予感させるような絵を、自分なりに描けたらと思いました。


【原稿を読み、イメージを膨らませる】

まずは作品を読むことから始めます。

本作は、友達と汽車で星々を巡る不思議でわくわくする冒険のお話というよりは、 孤独や自己犠牲などの死生観が強く反映されているためか、 寂しく、神秘的で儚い印象が色濃く出ている作品だと感じました。

読了後に思わずため息が出てしまうくらい、余韻を楽しめる作品です。 この読後感をそのまま正直に、絵に落とし込むことにします。


【アイデアスケッチ】

表紙は読み手が作品の印象を初見で決める大切な役割を担います。 今回は児童書としての「銀河鉄道」なので、あまり暗く(怖く)ならないように気を付けながら、 作品の雰囲気を尊重した絵を描くことに努めます。


ラフを描く前に、頭の中にあるイメージを、アイデアスケッチとして数パターン描き出すことにしています。 場合によってはラフの前にアイデアスケッチで構図を決めてから 描きこんだラフ1枚を仕上げる流れを取ることもあります。


初めから手の込んだラフを複数枚描くのもエネルギーが要るので、 この方法だとショートカットで清書に進めるので個人的にはありがたいのです。

※動画では、その流れを汲んで制作しています。


初期ラフ1. 汽車を横から切り取った絵


メリット

・表1から表4に渡ってぐるりと時間軸を表現できる

(表1 始発点→白鳥の停留所→表4で終着点=石炭袋)


デメリット

・銀河が目立たない

・フラットな印象

初期ラフ1, 2-1

初期ラフ2. 星巡りの一場面を切り取った絵。鳥捕りのシーン。


メリット

・銀河のキラキラ、サギが落ちてくる迫力が表現でき、ドラマチックな絵になりそう。


デメリット

・表紙がこのシーンである必要性がない。

・読了後、表紙を見返した時の感情がちぐはぐにならないか。


初期ラフ3. サザンクロスへ向かう列車の絵


メリット

・本作を読んで感じた雰囲気(静寂と神聖な空気感)に、一番近い表現が出来そう。

デメリット

・汽車と十字架だけで、子どもたちの関心を惹ける絵になるか?(人を描く余地がない)


初期ラフ2-2, 3

このようにそれぞれの構図を比較した結果、今回はラフ1で描き進めていくことにしました。


このメリット・デメリットは、実際の仕事の際も、編集さんに共有して参考にしていただいています。


 

制作上のこだわりについて教えて下さい。


ao:資料集めに手を抜かないことです。


私は、想像だけでは説得力のある絵が描けないため、資料集めを念入りに行います。

出来るだけ、描きたい情景・場所に足を運んで現場の空気を吸収し、写真に残すことにしているのですが、 その点で今回は内観の資料を探すのに苦戦しました。


制作期間中、緊急事態宣言期間が重なってしまい、気軽に外出出来ない状況にあったのです。 今回私が描きたかった車内は、一昔前の板張りのデザインのものでした。


一番理想的な資料は、京都の鉄道博物館に行って、実際に目で確かめることだったのです。仕方なくネット上の写真を参考にするも、やはり構造上わからない点が多く、 結局途中で現地へ足を運ぶことにしました。



京都鉄道博物館 撮影素材_1

京都鉄道博物館 撮影素材_2

京都鉄道博物館 撮影素材_3


この絵はオハフ33形客車の車内を参考にして描いています。 私の場合、実体験を通してその場の空気を感じたり、 構造を理解した上で描くと、絵により説得力や思い入れが生まれるため、 多少無理をしても、資料集めには手を抜きません。


 

ao様は他の作品でも、柔らかい質感や、子供心にわくわくする構図、鮮やかな配色を得意とされているかと思います。 これらについて、どのように試行錯誤して今のスタイルになったのか、教えて下さい。


ao:今の描き方に落ち着いたのは、環境の変化によるものだと思います。


学生時代も絵をよく描いていたのですが、社会人になってからは忙しさから絵を描かなくなりました。


それからしばらくたって子どもが生まれると、久しぶりにまた描こうと思うようになりました。何の気なしにSNSにイラストを投稿してみると、想像以上に見てもらえて。


「あたたかい絵」「やさしい絵」という感想を多くいただいたことで初めて、昔と比べると明らかに作風が変わっていることを自覚しました。


画風については、自然体で描いてきたものが認められるようになったので、 特に試行錯誤して今に至る…ということはありませんでした。育児と並行で仕事をしている今、制作時間も限られているため、 一気にたくさんの絵を描くことができないのですが、 その代わり一枚に思いっきり気持ちを込めて描くことを大事にしています。


それが、「物語性」に繋がっているのかもしれません。


 

小説やゲーム、他にも様々な仕事の領域がありますが、子供に向けたイラストを描き続けていきたいと思うのは、どういった考え方や人生観が軸にあるのでしょうか。


ao:娘がいることもあって、子どもたちの成長に寄り添った絵を描きたいという思いが根底にあります。

私が絵本や児童書から色々な感情をもらって育ったように、今度は私が届ける側に回りたいと思いました。


また、特に意識しているわけではないのですが、私のタッチや色使いが小中学生にぴったりだそうで、読み物や教育の分野でのご依頼をいただけることが多く、ありがたいことに自身が携わっていきたい分野とも合致しているので、引き続き柔軟に活動していきたいと思います。

ao

滋賀県在住のイラストレーター・作家。

主に児童書、教材、楽曲イラストなどの分野で活動中。1枚の絵からストーリーが広がるような世界観が持ち味。

使用ツール:Adobe Fresco、PhotoshopCC、ipad pro、Windows10、HUIONQ11K

聞き手:MakingLaBo編集部






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