「会社の7周年に書籍を出版するので、表紙としても使えるビジュアルイメージを作成してほしい」
本作品は、こうしたテーマのもと、イラストレーター mashuが描いたものです。
ここでは、どのようにしてラフ案を絞り込んでいったか、またその背景にある制作のこだわり、仕事への向き合い方について、インタビューを通じ紐解いていきます。
今回、「金融」と「女子」というキーワードがある中で、
どのようにしてアイディアを練り、ラフの完成まで進められたのでしょうか。
mashu:まず、一般的な進め方からお話しします。
事前調査
初めにクライアントの情報(背景やどんな方なのかなど)をインターネットで調べます。
その間に自分の中で「こんなイメージがいいかな」とふわっとした方向性を考えはじめます。何も先入観がない状態の方が頭も柔らかく実際に商品を手に取る人と同じ視点に立てるので、最初のインプレッションも大切にしています。
クライアントへヒアリング
次にクライアントヒアリングを行います。
「最も大切にしたいこと」「出力される形(サイズ含めて広告や本などの媒体)」 「ターゲット」など商品として守るべきルールをメインに確認します。
アイディア出し~ラフスケッチ
ヒアリングの内容を一度持ち帰り、そこから情報を広げつつ、アイデア出しをしていきます。
アイデア出しの基本は「最も大切にしたいこと」のキーワードからマインドマップで キーワードを広げていきます。この時、関連する競合商品のイメージビジュアルも調べます。
意図としては、競合商品とイメージが被らないようにするためと 一緒に置かれたときに商品がどんな風に見られるか検討するためです。
ビジュアルを組み立てるときは全体の構図を決めてから、 細部のパーツ、例えば女の子の髪型や周りに配置するモチーフの細かいあしらいをラフスケッチしていきます。
細部のパーツを作り込むときはPinterestなど資料を用いてビジュアルとして素敵になるようにアイデアを探して参考にしてます。 このように「アイデア出し」はインプットとアウトプットを繰り返しながらビジュアルを立ち上げています。 ここまでを紙とペンまたは鉛筆を使って仕上げています。
クライアントへのラフ提出
ここからは動画で掲載されている流れですが、スケッチをラフとして仕上げていきます。
クライアントにお見せし、必要な修正やご指摘を頂いたら、本制作に入っていきます。
なお、大幅な修正については、1回までなら受け付けるというお話をクライアントとすることにしております。
次に、実際に今回の案件でどうだったか、というお話をします。
クライアントへヒアリング
クライアントからは「辞書のような、お守りとして持っていたくなる本を作りたい」かつ、表紙のイラストは私が得意とする「妖精」などファンタジックな印象にしたいとお話を受けました。
アイディア出し~ラフスケッチ
ヒアリングした内容をそのまま全て入れ込んでしまうと、表紙と中身のイメージがチグハグになってしまう懸念がありました。ファンタジックさを残しつつ「金融」を読者により柔らかい印象で伝えられるように落とし込む必要がありました。
具体的に何をしたかというと、金融を彷彿とさせるアイコンや現実を生きる女性たちなど
”金融についての書籍”ということが伝わるようなモチーフを散りばめつつ、表紙中央の女性の貝殻イメージのカバンから波が溢れる・小人がいるなど抽象的な表現で、色合いも柔らかな可愛らしい印象にまとめました。
自主制作と案件で大きく異なる点でもありますが、イラストを描くときには絶対に「クライアントの要望」があり、その先にイラストを見る「ターゲット」がいて、その人たちに刺さらないといけません。
そしてクライアントからの要望とターゲットに伝えることを、構図や配色、モチーフの描き方、デフォルメの仕方などイラストとして落とし込む際に”どのようにしたらよりよく見せられるのか”が、イラストレーターとして腕の見せ所だと考えています。
クライアントへのラフ提出
クライアント様にはとても喜んでいただき、ぜひこのまま進めてほしいと仰って頂けました。その際、ビル群や中心にいる女性については、具体的な意向も頂くことが出来ました。
とてもスムーズな進行をされている印象がありますが、
今回制作される中で、悩ましかったポイントがあれば教えてください。
mashu:今回の場合、「金融」というかなり硬めなキーワードをどう柔らかく表現するか悩みました。
クライアントからは事前に、イメージに近しい作品や、「海」「豊か」といったキーワード、加えて「自分の世界観にお任せしたい」という大変ありがたい言葉をいただきました。これを受けて、最大限自分が得意とする世界観を活かした、だけど「金融」としてのイメージが伝わるよう落とし込んでいきました。
具体的には、モチーフは「金融」に関係するものを散りばめながら、タッチやデフォルメ、配色をファンタジックな夢のある印象にまとめることで「金融」ときんゆう女子さまが目指す「自由で等身大に生きる。〜わたしらしいミライへの解放〜」の柔らかで豊かな世界観に近づけていきました。
この作品にかぎらず、mashu様は妖精に近いキャラクターや、淡い色彩により日常を美しく彩るのが得意かと思いますが、これらについて、どのように試行錯誤して今のスタイルになったのか、教えて下さい。
mashu:子供の頃からアニメや漫画が大好きで、学生時代はアニメっぽい絵を描いていたのですが、デザイナーとして働くようになって「コンセプト」を伝えることを優先するようになってから絵柄がよりシンプルになっていったと思います。
今の作風の土台は、ミュシャやエルテ、ヒルダ・コーハイム、メアリ・ブレア、エリク・ブラートフ & オレグ・ワシーリエフなど自分が生まれるより前の作家からの影響が大きいです。
制作におけるこだわりがあれば、教えてください。
mashu:みたときにぐっと心を掴むような作品になるように試行錯誤してます。
日常の嫌なことや楽しくないと感じることでもアイデアやビジュアルで「ここちよく、たのしく」魅せられたらいいなと考えています。
mashu
Love Fantasy塗り絵『花ことば 〜ふしぎの国の妖精たち 』、ブライダルリング専門店「AFFLUX」とのコラボイラスト、挿絵 などのアートワークを担当。豊かな発想で日常の何気ないものをロマンティックな世界観で描く。 著書『デザイン視点でイラストを描く』(マール社)
使用ツール:CLIP STUDIO PAINT, 12.9インチiPad Pro / apple pencil 第二世代
聞き手:MakingLaBo編集部
Comments